組合員への注意・懲戒はどこから不当労働行為になるか―二つの中労委命令を比較する
公開日:2026/10/28 / 最終更新日:2026/10/28
組合パンフレットの無許可配布への厳重注意が不当労働行為とされた一方、組合員によるハラスメントを理由とする停職処分は不当労働行為に当たらないと判断された、二つの中央労働委員会命令を比較します。
判断では、行為の具体的内容、組合活動との関係、措置の理由・相当性、調査や反論の手続、組合活動への影響を確認することが重要です。不当労働行為該当性と懲戒処分の有効性は分けて検討します。
「会社の許可なく組合のパンフレットを配っていたので、厳重注意をしたい」
「ハラスメントの申告を受けたが、相手は組合員だ。懲戒すると不当労働行為になるのだろうか」
いずれも、経営者や人事担当者が判断に迷いやすい場面です。
対応を決めるには、対象となった行為の内容、注意・懲戒の理由と重さ、手続、
そして組合活動に与える影響を具体的に確認する必要があります。
2026年9月に中央労働委員会が公表した二つの事件では、
一方の「厳重注意」が不当労働行為とされ、
他方の「停職処分」は不当労働行為に当たらないと判断されました。
なぜ結論が分かれたのでしょうか。
本記事では、中労委の公表した命令概要をもとに、企業が押さえたい判断のポイントを整理します。
1.まず、組合活動の保護と職場規律の維持を整理する
労働組合法7条1号は、組合員であることや正当な組合活動をしたことなどを理由とする不利益取扱いを禁止しています。
同条3号は、労働組合の結成・運営に対する支配介入を禁止しています。
そのため、注意や懲戒の根拠となる就業規則があっても、それだけで対応の適法性が決まるわけではありません。
実際に何を理由として、どのような措置を執ったのかが問題になります。
他方、組合員であることによって、職場での不適切な言動が一律に懲戒の対象外になるわけでもありません。
具体的な行為を証拠に基づいて確認し、組合との関係を理由に取扱いを変えていないかを検討することが重要です。
2.東日本旅客鉄道事件――「無許可」と「厳重注意」の実質
東日本旅客鉄道事件(中労委・令和5年〔不再〕第17号)は、2026年9月10日に命令書が交付され、同月14日に公表されました。
組合員2名は、始業前に職員更衣室で組合パンフレットを配布しました。
中労委は、その内容に会社や他組合への誹謗中傷がなく、乗客の目に触れない場所で短時間・平穏に行われた事情などから、
職場秩序を乱すおそれのない特別の事情を認め、正当な組合活動と評価しました。
会社の厳重注意は、懲戒処分ではなく、給与等の減額も伴いませんでした。
しかし、文書で交付され、人事記録にも残ることなどから、不利益取扱いとされました。
組合活動を萎縮させる効果も認められ、労組法7条1号・3号に該当すると判断されています。
また、無許可の組合活動等への対処に関する会社掲示は、
労使交渉等の経緯も踏まえ、同条3号の支配介入とされました。[資料1]
企業が確認したいこと
この事件から実務上学べるのは、許可の有無に加えて、
行為の目的・内容・場所・時間・態様と、業務や職場秩序への影響を調べる必要があるということです。
会社施設内の無許可の活動が常に許されるという一般論に置き換えることはできません。
例えば、配布に要した時間、通行や業務を妨げていないか、受取りを強要していないか、
配布物に何が記載されているかなどを確認し、就業規則や労働協約の内容と併せて検討します。
さらに、注意の名称だけで軽い措置と考えるのは危険です。
文書化、人事記録への保存、その後の評価への影響などを確認する必要があります。
社内掲示や一斉通知についても、
文言に加え、発信の時期や直前の労使交渉との関係を点検しましょう。
3.尼崎交通事業振興事件――組合員へのハラスメント懲戒
尼崎交通事業振興事件(中労委・令和7年〔不再〕第29号)は、2026年9月16日に命令書が交付され、同月17日に公表されました。
会社は、組合員2名に対し、パワーハラスメント等を理由に、それぞれ停職20日と停職5日の処分をしました。
中労委は、一部の対象行為を懲戒事由とは評価しなかったものの、そのほかの行為に関する会社の判断には不合理な点がないとしました。
2名が管理職としてハラスメント防止規程の策定にも関わっていたこと、部下への継続的で重大な言動、十分な反論機会などを検討し、
処分の必要性・手続・量定に関する組合側の主張を退けています。
組合嫌悪や弱体化の意図による処分とも認められず、
労組法7条1号・3号の不当労働行為には当たらないと判断されました。[資料2]
企業が確認したいこと
実務では、
「ハラスメントがあった」という結論を先に置かず、
発言や行為を一つずつ特定することが出発点になります。
いつ、どこで、誰に、何をしたのか。
その前後の状況や業務上の必要性も含めて、申告内容と証拠を照合します。
本人の説明や反証も確認し、認定できる事実と認定できない事実を分けることが重要です。
調査の途中で根拠が崩れた事実を、そのまま処分理由に残してはいけません。
その上で、役職、言動の程度・反復性、被害、過去の指導や処分例などを踏まえ、
なぜその処分が必要で、その重さが相当なのかを説明できるようにします。
なお、過去の処分例との比較は、本記事における実務上の提案であり、
今回の公表資料が比較対象の処分例を具体的に示しているわけではありません。
4.二つの事件を比較する際の三つの視点
1⃣ 会社は、どの行為を問題にしているのか
組合への加入勧誘など、組合活動そのものを対象とする場合には、
その正当性を丁寧に検討する必要があります。
ハラスメント等を対象とする場合にも、具体的な発言・行為と組合活動との関係を整理してください。「組合員が行ったから組合活動」「会社への厳しい発言だからハラスメント」といった分類では、判断を誤るおそれがあります。
2⃣措置の理由と重さを、組合との関係から独立して説明できるか
「同じ行為を非組合員がした場合にも、同じ調査と処分をするか」は、
社内検討で有用な問いです。比較する際は、行為の内容や役職、被害などの違いも確認します。
ただし、この問いに「はい」と答えるだけで不当労働行為の問題が解消するわけではありません。
正当な組合活動への制約や、組合運営に及ぼす影響は、別途検討する必要があります。
3⃣調査から決定までの経緯を記録で示せるか
紛争になった場合、会社の説明だけでなく、当時の調査記録や意思決定の資料が重要になります。
申告内容、聴取記録、関連するメール等、本人の反論、事実認定、適用する規程、処分の重さを選んだ理由を整理しましょう。組合からの申入れや団体交渉と処分が近接している場合には、
その時期に判断した理由も説明できるようにしておくことが有用です。
これらは、二つの事件を踏まえた実務上の確認事項です。
中労委がこの三項目を一律の判断基準として示したという趣旨ではありません。
4⃣「不当労働行為ではない」と「懲戒が有効」は、分けて検討する
懲戒処分については、不当労働行為に当たるかという問題に加え、
労働契約法15条による懲戒権濫用の問題があります。
同条は、行為の性質・態様などに照らし、
合理的な理由や社会通念上の相当性を欠く懲戒を無効とする規定です。[資料4]
今回紹介したのは、不当労働行為に関する中労委の判断です。
尼崎事件を、組合員のハラスメントについて停職処分を一律に認める基準や、
民事上の有効性を確定した裁判例として扱うことはできません。
会社としては、就業規則等の根拠、事実認定、手続、処分の重さを確認するとともに、
組合員であることや正当な組合活動を理由とする取扱いになっていないかを検討する必要があります。
注意書や処分通知を出す前に、判断の根拠を確認する
組合活動への注意と、組合員によるハラスメントへの対応では、
まず対象となる行為を正確に把握することが大切です。
その上で、会社の措置が必要な範囲に収まっているか、組合活動への影響も含めて検討します。
注意書、懲戒通知、社内掲示は、一度発信すると、その後の労使関係にも影響します。
弁護士法人スピカでは、労働組合対応、ハラスメント調査、懲戒処分の検討について、
事実関係の整理からご相談をお受けしています。
対応に迷う場合は、文書を発出する前の段階でご相談ください。
参考資料
1. 中央労働委員会「東日本旅客鉄道不当労働行為再審査事件(令和5年〔不再〕第17号)命令書交付について」(2026年9月14日)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/futouroudou/dl/r080914-1.pdf
2. 中央労働委員会「尼崎交通事業振興不当労働行為再審査事件(令和7年〔不再〕第29号)命令書交付について」(2026年9月17日)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/futouroudou/dl/r080917-1.pdf
3. 厚生労働省掲載「労働組合法」7条
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73001000&dataType=0&pageNo=1
4. 厚生労働省「労働契約法の施行について」懲戒(法15条関係)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8530&dataType=1&pageNo=1
※事例の紹介は中労委の報道発表資料に掲載された命令概要に基づきます。
命令書全文や、その後の取消訴訟・確定状況まで確認したものではありません。
