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「契約社員」でも無期雇用なら関係ない?――東北映像事件にみる待遇格差リスクと10月施行の新ガイドライン

公開日:2026/09/10 / 最終更新日:2026/09/10

はじめに――「非正規」だけの問題ではなくなった待遇格差

正社員とパート・有期契約社員との間の不合理な待遇差は、「同一労働同一賃金」のルール(パートタイム・有期雇用労働法8条など)で禁止されています。では、契約期間の定めのない、フルタイムの「契約社員」――つまり法律上はこのルールが直接には適用されない無期雇用の従業員――と正社員との格差はどうでしょうか。

この問いに正面から答えた裁判例が確定しました。東北映像事件(仙台高裁令和7年9月11日判決、令和8年4月15日の最高裁決定により確定)です。折しも、令和8年10月1日からは改正された同一労働同一賃金ガイドライン(国が示す待遇差の考え方の指針)が適用され、無期雇用フルタイム労働者にもその趣旨が及ぶことが明記されます。今回はこの判決の概要と、企業に求められる対応を整理します。

事案の概要――「契約社員」と正社員の手当・賞与の差

原告は、放送番組制作会社に中途採用され、20年以上「契約社員」の呼称で一般事務に従事してきた無期雇用のフルタイム労働者です。ほぼ同じ事務に従事する正社員と比べ、基本給は8割程度、賞与は4割程度にとどまり、家族手当・住宅手当も正社員と同等には支給されていませんでした。

パート・有期雇用労働法は「短時間」または「有期」の労働者を保護する法律なので、この方には直接適用されません。そこで裁判所は、働き方改革関連法が施行された令和2年4月1日以降は、均等・均衡待遇のルールが「公序」(社会の基本的な秩序。これに反する行為は民法90条により違法とされえます)として確立しており、無期雇用労働者間でも、待遇の相違が不合理で社会通念上許容されない場合には不法行為(損害賠償責任)が成立しうる、という枠組みを示しました。

そのうえで、基本給の差は業務内容や責任の違いから不合理とはいえないとする一方、賞与は正社員の7割を下回る部分が、生活費補助の性質をもつ家族手当・住宅手当は正社員と同等に支給しないことが不合理であるとして、会社に損害賠償を命じました。無期雇用フルタイム労働者間の待遇格差について損害賠償を認めた初めての確定裁判例と評価されています。

どう受け止めるべきか――複数の視点

この判決には、いくつかの見方がありえます。労働者保護の観点からは、「契約社員」という呼称や採用の経緯ではなく、各待遇の性質・目的という実態に照らして判断した点で、同一労働同一賃金の考え方を一歩先に進めたものと評価できます。基本給・賞与の格差を割合的に判断した近時の裁判例(名古屋自動車学校事件の差戻審判決など)とも方向性を共有するとの指摘があります。

他方で、慎重な見方もあります。「公序」という理論構成やその成立時期の区切り方、「賞与の7割」といった割合的な線引きの根拠については専門家の間でも議論があり、上告不受理で確定したからといって、最高裁がこの判断枠組みを実体的に承認したとまでは言い切れない、という指摘です。

今後の裁判例の集積によって射程が変わる可能性は十分にあり、個別の事案ごとの判断になる点には留意が必要です。

企業が今からできること――10月の改正ガイドライン適用も踏まえて

とはいえ、令和8年10月1日適用の改正ガイドラインが、無期雇用フルタイム労働者や勤務地・職務限定の「多様な正社員」にも指針の趣旨が考慮されるべきことを明記した流れをあわせ見ると、「パート・有期でないから点検不要」という整理はリスクが高くなっていると考えられます。実務上は、次のような対応が考えられます。

第一に、「契約社員」「嘱託」などの呼称にかかわらず、雇用区分ごとの待遇差(特に家族手当・住宅手当のような生活費補助的な手当と賞与)を棚卸しすること。

第二に、それぞれの待遇の性質・目的を整理し、差を設ける理由を説明できるよう準備しておくこと(有期・パート労働者には法律上の説明義務もあります)。

第三に、賃金テーブルなど支給基準を明確にしておくこと。基準がないと、紛争になった際に全職員の支給実績から待遇の性質を認定することになり、双方に大きな負担が生じます。第四に、労働組合や従業員代表との協議に誠実に対応することです。近時の裁判例は、労使交渉の「経緯」を不合理性の判断で考慮する傾向を示しています。

おわりに

待遇差の適法性は、各待遇の性質・目的や個別の事情によって結論が大きく変わる分野であり、本判決の射程についても見解が分かれうるところです。自社の雇用区分と待遇差の点検、説明資料の整備、規程の見直しなどをお考えの際は、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。


※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な問題については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。記事の内容は執筆時点の情報に基づきます。


出典・参考資料

  • 東北映像事件・仙台高判令和7年9月11日(令和7年(ネ)第104号、裁判所ウェブサイト掲載。最決令和8年4月15日上告不受理により確定)※判決文URLは裁判所HPで要確認
  • 名古屋自動車学校事件・最判令和5年7月20日(労判1292号5頁)、同(差戻審)名古屋高判令和8年2月26日(労働判例ジャーナル169号2頁)
  • ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)、メトロコマース事件・大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日)、日本郵便3事件(最判令和2年10月15日)
  • 労働政策審議会・同一労働同一賃金部会報告「雇用形態又は就業形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けた取組の強化について」(令和7年12月25日): https://www.mhlw.go.jp/content/001629296.pdf
  • 同部会ページ(開催経過・資料): https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_443697.html
  • 改正省令・雇用管理指針・ガイドラインの概要(厚生労働省): https://www.mhlw.go.jp/content/001695902.pdf
  • 改正同一労働同一賃金ガイドライン(令和8年4月28日厚労告第203号・令和8年10月1日適用)※告示原文は官報で要確認
  • 水町勇一郎「無期雇用労働者間の不合理な待遇の相違の違法性――東北映像事件」ジュリスト1626号4頁(2026年)