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「休職」対応の落とし穴、御社の就業規則は大丈夫ですか?――人事労務セミナー登壇のご報告

公開日:2026/09/10 / 最終更新日:2026/09/10

セミナー登壇のご報告

当事務所の弁護士・平田が、愛知県経営者協会様主催「2026年度 人事労務トラブル対応講座」の第1回として、「『休職』実務対応のポイント――不調の兆しから復職・退職まで、時系列でおさえる」と題する講座を担当いたしました。

当日は多くの人事労務ご担当者にご参加いただき、休職制度の基本構造から、復職判定・休職期間満了時の対応、実際のご相談を想定した設例検討まで、2時間にわたりお話ししました。

本記事では、その内容の一部として、休職対応で特につまずきやすいポイントをご紹介します。

「休職」は法律ではなく、就業規則の制度

意外に思われるかもしれませんが、私傷病(業務外のけがや病気)による「休職」は、労働基準法などの法律に定義や要件が定められた制度ではありません。根拠は各社の就業規則や労働契約にあり、制度の中身は会社ごとに異なります。だからこそ、休職対応の出発点は常に「自社の規定の確認」であり、他社の対応例やインターネット上の情報をそのまま流用することにはリスクがあります。

また、私傷病休職は、働けない状態の従業員について直ちに雇用契約の終了を問題にするのではなく、一定期間解雇を猶予して療養の機会を与える制度と説明されることが一般的です。裏を返せば、休職を発令した日から「期間満了のときにどうなるか」を見据えた運用が求められる、ということでもあります。

就業規則によくある「3つの穴」

セミナーでは時系列に沿って多くの論点を扱いましたが、ご相談の多い規定面の穴を3つだけご紹介します。

第一に、断続欠勤の穴です。「連続○か月欠勤したとき」という規定だと、途中で数日出勤があるたびに欠勤日数がリセットされ、いつまでも休職を発令できないことがあります。メンタルヘルス不調は「出たり休んだり」になりやすいため、断続欠勤を通算できる定めを置くことが考えられます。

第二に、期間満了時の効果の穴です。「満了までに復職できないときは退職とする」という定めがないと、期間満了時の扱いが解雇の問題として争われやすくなります。もっとも、規定があっても「復職できたはずだ」と争われれば実質的な争点は残りますので、規定の整備と、復職可否を判断した過程の記録の両方が重要と考えられます。

第三に、再発時の通算規定の穴です。復職後まもなく同じ傷病で欠勤が再開した場合に、その都度まっさらな休職期間を付与することになりかねません。なお、これらの規定を新たに設ける際は、就業規則の不利益変更にあたらないかという別の論点にも配慮が必要です。

設例:休職中の社員がSNSに旅行の写真を…

セミナーで反響の大きかった設例をひとつ。うつ病で休職中の社員がSNSに旅行や趣味の投稿を続けており、他の社員から不満が出ている――「療養に専念していない」として懲戒処分できるでしょうか。

結論から言えば、直ちに懲戒に踏み切ることには慎重であるべきと考えられます。うつ病などの療養では、外出や気分転換がむしろ治療上有益とされる場合があり、「旅行に行けている=働ける」という等式は医学的には成り立たないことがあるためです。まずは事実を記録したうえで本人に事情を確認し、主治医や産業医に「療養に支障のない活動か」を照会する、という順序が穏当でしょう。他方で、療養と明らかに矛盾する就労などの事情があれば、別途厳正な対応を検討することになります。このあたりの線引きは、まさに事案によります。

おわりに――「規定・医学的情報・記録」の3点セット

休職をめぐるご相談は、「就業規則に根拠はあるか」「医師の意見を集めたか」「検討の過程を記録に残したか」の3点で整理すると、どこに弱点があるかが見えてくることが多いように思います。

規定の穴は、トラブルが起きる前の平時にしか塞げません。なお、従業員50人未満の事業場へのストレスチェック義務の拡大(令和10年4月施行予定)など、「不調に早く気づく」方向の法改正も控えており、休職対応を含むメンタルヘルス体制の点検は今後ますます重要になると考えられます。

自社の休職規定の点検や、現に進行中の休職・復職対応にお悩みの際は、お早めに弁護士にご相談ください。


※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な問題については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。記事の内容は執筆時点の情報に基づきます。


出典・参考

  • 片山組事件・最一小判平成10年4月9日(職種限定のない労働者の復職可否と他業務での就労可能性)
  • 日本ヒューレット・パッカード事件・最二小判平成24年4月27日(精神的不調による無断欠勤と懲戒処分)
  • 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
  • 改正労働安全衛生法(ストレスチェック実施義務の50人未満事業場への拡大): https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70761.html