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「昔からの慣行」が約6,000万円の是正に――下請代金の減額はなぜ厳しく扱われるのか

公開日:2026/11/01 / 最終更新日:2026/11/01

2026年10月、公正取引委員会は、厨房機器大手が下請事業者385名への支払額から「事務手数料及び金利」を差し引き、計約6,089万円を減額していたとして勧告しました。下請事業者の同意や長年の慣行があっても、正当な理由のない代金減額は違反となり得ます。

2026年1月施行の取適法では、適用範囲の拡大や手形払いの禁止、協議なき一方的な価格決定の規制が導入されました。発注側には取引条件や契約書の点検が、受注側には不当な控除への適切な対応が求められます。

はじめに――大手メーカーに公取委が勧告

2026年10月29日、公正取引委員会は、業務用厨房機器の製造販売を手がける大手メーカーに対し、下請法(下請代金支払遅延等防止法)違反を理由とする勧告を行ったと公表しました。

公表された内容によれば、同社は、厨房機器の製造や修理、運送・設置を委託していた下請事業者385名に対し、「事務手数料及び金利」という名目で、下請代金に一定率を乗じた額を差し引いて支払っていたとされています。減額の総額は約6,089万円(令和7年4月〜令和8年1月分)にのぼり、同社はすでに全額を下請事業者に支払ったうえで、公取委から再発防止等の勧告を受けました。

「手数料を差し引くくらい、よくある話では?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、まさにその「よくある話」が、法律上は明確な違反とされ得るのです。

なぜ「減額」はこれほど厳しく扱われるのか

下請法は、立場の強い発注者(親事業者)が、立場の弱い受注者(下請事業者)に不利益を押しつけることを防ぐための法律です。その中でも「下請代金の減額」は、下請事業者に責任がない限り、名目や理由を問わず禁止されるという厳格な建て付けになっています。

ポイントは、下請事業者が同意していても違反になり得ると考えられていることです。

「協力金」「手数料」「振込手数料」「歩引き」など呼び方を変えても、合意書を交わしていても、実質的に決まった代金から差し引けば減額にあたり得ます。力関係の差があるなかでの「同意」は、真意によるものとは限らないからです。

今回の事案で注目されるのは、減額の名目が「事務手数料及び金利」だったことです。

取引に伴う事務コストや立替金利を取引先に負担させる運用は、業界によっては長年の慣行になっていることもあります。しかし、慣行であることは適法であることを意味しません。

なお、今回の「勧告」とは、公取委が違反行為の是正や再発防止を求める行政上の措置で、刑事罰そのものではありません。もっとも、勧告は会社名とともに公表されるため、取引先や金融機関からの信用、採用活動などへの影響(いわゆるレピュテーションリスク)は小さくないと考えられます。すでに減額分を全額支払った後であっても勧告・公表に至っている点は、企業側として見逃せないところです。

2026年、下請法は「取適法」に変わりました

もう一つ押さえておきたいのが、法律自体の大きな変化です。下請法は改正され、2026年1月から「中小受託取引適正化法」(通称「取適法」)として施行されています。今回の勧告は改正前の行為に旧法を適用したものですが、新法の下では規律はさらに広く、強くなっています。主な変更点として、次のような点が挙げられます。

  • 適用範囲の拡大: 従来の資本金基準に加えて従業員数基準が導入され、これまで対象外だった取引もカバーされ得るようになりました。一定の運送委託も新たに対象とされています。
  • 手形払いの禁止: 代金の支払いに約束手形を用いることができなくなりました。
  • 協議に応じない一方的な代金決定の禁止: 受注側からの価格交渉の申し入れを無視したり、十分な協議なく一方的に代金を据え置いたりする行為が、新たに明確に規制されました。

用語も「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」に改められており、契約書式や社内マニュアルの見直しが必要になる企業も少なくないと考えられます。

発注側・受注側、それぞれの視点で

発注側の企業にとって、今回の勧告は「金額の多寡や名目にかかわらず、代金からの差し引きは原則アウト」という原則を再確認する機会といえます。

手数料・協力金などの名目で取引先の支払額から控除している項目がないか、振込手数料を一方的に先方負担としていないか、価格交渉の記録を残しているか——この機会に点検されることをおすすめします。違反があった場合、是正しても勧告・社名公表に至り得ることは、今回の事案が示すとおりです。

一方、受注側の中小企業にとっては、「長年の慣行だから」「取引を続けたいから」と受け入れてきた控除や支払条件が、法律上は守られるべき利益である可能性があります。

公取委や中小企業庁には申告窓口があり、申告したことを理由とする報復的な取扱いも禁止されています。もっとも、実際にどう動くかは取引関係への影響も踏まえた慎重な判断が必要ですので、事案に応じて専門家にご相談いただくのがよいと考えられます。

おわりに

下請・委託取引をめぐる規律は、2026年の取適法施行で大きな転換点を迎えています。公取委の執行も活発であり、「昔からこうしてきた」という理由だけで続いている商慣行こそ、見直しの対象といえそうです。当事務所でも、取引条件の点検や契約書式の見直しについてのご相談を承っております。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な案件については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。


出典(参照した公表資料・報道等)

  1. 東京新聞「調理機器大手が下請法違反 業者への代金減額、計6千万円」(2026年10月29日) https://tokyo-np.co.jp/article/524751
  2. 創業手帳「2026年1月施行の改正下請法(中小受託取引適正化法)のポイント」 https://sogyotecho.jp/subcontract-law-revision-2026/
  3. 下請代金支払遅延等防止法(旧下請法)・製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)

    ※条文は e-Gov 法令検索で要確認 https://elaws.e-gov.go.jp/